建具づくりの素材選びから完成まで
建具職人の工房では、木材の選定から加工、組み立てまで、すべての工程に職人の技術と経験が活かされています。今回は、実際の工房で使用される木材や機械、そして伝統的な技法について詳しくご紹介します。
使用される木材 – スプルース材の特徴
建具に使用される主な材料は「スプルース」という木材です。これはクリスマスツリーに使われるもみの木の一種で、日本語では「蝦夷松(えぞまつ)」と呼ばれています。
スプルース材の見分け方
木材には「年輪」があり、これが木の成長の歴史を物語っています。濃い色の部分が冬に形成される「冬目」で、冬はほとんど成長しないため色が濃くなります。一方、明るい色の部分は夏に成長した部分です。
年輪の幅が広いほど成長が早かったことを示し、約30年分の年輪を数えることができる木材もあります。北海道など寒冷地で育った木は成長が遅く、年輪が詰まっているのが特徴です。
日本の杉材との比較
日本の杉材と比較すると、杉は赤身と白太の区別がはっきりしています。しかし、スプルース材は比較的均一な色合いで、製品に使用する際は白い部分を取り除いて使用することもあります。
木材加工の最新機械設備
1. 横切り盤 – 正確な寸法決め
工房で最も重要な機械の一つが「横切り盤」です。この機械の特徴は以下の通りです。
- 天井高まで対応可能な高さ(約2,100mm以上)
- 溝ガイドによる正確な直角切断
- 複数枚の板を同時に切断可能
約30年前に導入されたこの機械は、当時280万円という高額な投資でしたが、正確で効率的な作業を可能にしました。ホームセンターにも簡易版が置かれていますが、プロ仕様の機械は高さや精度が大きく異なります。
2. 手押し鉋(かんな)機
木材の表面を平らにし、直角を出すための機械です。内部に回転する刃が3枚装備されており、木材を通すことで正確な直角面を作り出します。
3. 自動鉋機
木材の厚みを均一に仕上げる機械です。上から押さえながら木材を通過させることで、決まった寸法に加工できます。
4. 角鑿(かくのみ)機
建具の組み手となる四角い穴を掘る専用機械です。従来は手作業で行っていた作業を、正確かつ効率的に行うことができます。
5. 昇降盤
溝を掘ったり、板を縦に切ったりする多機能な機械です。刃が上下に昇降することで、さまざまな深さや幅の加工が可能になります。
6. 面取り機
四角い木材の角を丸く削る専用機械です。完成品の手触りを良くし、安全性を高める重要な工程です。
7. 組み立て機
木材同士を圧力をかけて組み立てる機械です。足踏み式で強力な圧力をかけることができ、昔のように手で叩いて組み立てるよりも均一で確実な接合が可能です。
建具職人の技術 – 適材適所の木材選び
材料の見極め
建具職人にとって最も重要なのが「材料を見る目」です。木材を見て、以下のことを瞬時に判断します。
- どの部分をどの製品に使うか
- 目の詰まり具合や色合い
- 強度が必要な部分か装飾部分か
- 木材の癖や変形の可能性
白い部分でも表に出る部分であれば問題なく使用できますし、赤い部分は特に強度が必要な障子の縦枠などに使用します。
伝統的な組み手技術
建具の強度を支えるのが「組み手」と呼ばれる接合技術です。特に「三つ組み」は最も伝統的な技法の一つで、3本の部材を組み合わせることで強固な構造を作ります。
三つ組みの特徴:
- 3本で構造が決まるため、非常に強固
- 角度が正確でないと組めない
- 接着剤を使用しても、基本は木組みの強度
一方、「人差し組み」という技法は、C型の溝を組むだけの簡易的な方法で、多少の調整が可能です。
建具製作の実例 – 葬祭場の建具
製作工程
- 材料の準備: 木材を選び、必要な寸法に切り出す
- 加工: 各機械を使って溝や穴を加工
- 組み立て: 組み立て機で正確に接合
- 仕上げ: 面取りやペーパー掛けで滑らかに
- 塗装: 使用場所に応じた塗装
- ガラス・樹脂の取り付け: 最終工程
ガラス入れの工夫
建具のガラスは、上部の溝が深く下部が浅く作られています。これにより、ガラスを上に入れてから下に落とし込むことで簡単に取り付けられます。
取り外し可能な部材を使用することで、ガラス交換も容易に行えるよう設計されています。部材は黒く塗装し、ビスも同色にすることで、外から見ても金具が目立たないよう工夫されています。
組子細工 – 建具職人の真骨頂
組子とは、細い木材を組み合わせて幾何学模様を作る伝統技法です。釘や接着剤をほとんど使わず、木材の精密な加工と組み合わせだけで美しい模様を作り出します。
組子の特徴
- すべての部材が異なる加工を必要とする
- ミリ単位の精度が要求される
- 完成すると非常に強固な構造になる
- デザインの自由度が高い
ただし、組子細工は非常に手間がかかるため、現在では高級品にしか使用されません。一枚の建具に数百万円かかることもあるほどです。
昔と今の建具製作
昔の建具製作(約30年前)
- 一軒の家で100本以上の建具を使用
- 雨戸、網戸、ガラス戸、障子など
- すべて手作業での加工
- 仕事が追いつかないほどの需要
現代の建具製作
- 機械化により効率が大幅に向上
- より精密で均一な製品が可能に
- 人手不足は解消されたが、熟練職人の減少
- デザインや特注品への対応が中心
建具職人になるには
建具職人として一人前になるには、長い修行期間が必要です。
修行の段階
- 見習い期間: 材料を押さえる、掃除など基本作業
- 初級: 機械の操作を学ぶ
- 中級: 簡単な加工ができるようになる
- 上級: 材料の見極めができるようになる
- 独り立ち: 設計から完成まで一人で行える
特に重要なのが「材料の支度(したく)」、つまり木材を見て何に使うかを判断する能力です。これには長年の経験と知識が必要で、一朝一夕には身につきません。
まとめ – 機械と手仕事の融合
現代の建具製作は、最新の機械と伝統的な手仕事が融合した世界です。機械で正確な加工を行いながらも、最終的な調整や仕上げは職人の手と目によって行われます。
寸法一つ間違えれば材料がすべて無駄になる緊張感の中で、日々精密な作業が続けられています。それでも職人たちは「仕事のことが夢に出てくる」と語るほど、建具づくりに情熱を注いでいます。
美しく機能的な建具の裏には、このような職人の技術と努力が隠されているのです。
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